コラム骨造成について

インプラント治療を行うとき、骨の幅、厚みとも十分あればインプラント体を埋入するのにそう苦労はありません。方向、埋入深度等の診断をきちんとすれば、熟練された歯科医ならまず問題になることはありません。 しかし、日本人の顎骨は西洋人に比べて薄く、高さもないことが多いので、ここで我々歯科医は苦労することになります。

まずインプラントというのは必ず骨の中に埋入することで咬む力に対する負荷を対応します。これがしっかり入っていないと咬む力を支えることができないばかりか、その力に負けてインプラント自体が機能しなくなり、最後にはぐらつくようになり撤去しないといけなくなります。このように単純に「骨の中に入れる」ということが重要な意味合いを持ってくるのです。しかしここでいう「骨」が薄く高さもないとインプラントを十分に支えることができないため、そのままではインプラント治療が難しくなります。この問題がインプラント治療を行うに渡ってずっと問題になってきました。実はインプラント治療の問題点のほとんどはここに起因するものなのです。これを解決するのには2つの方法があります。

1つ目は「ショートインプラント」を使用することです。ショートインプラントとは文字通り短いインプラントのことです。通常のインプラントは長さが10 ㎜~15㎜あるのに対してショートインプラントは大体5㎜~8㎜程度しかありません。インプラント体があまりにも短いと側方にかかる力を耐えることができなくなると言われています。しかし現在出ているショートインプラントは長期的な症例を見てもあまり問題になるようなことはなさそうです。バイコン、エンドポア、ノーベルバイオケア社のショーティーなどはこの範疇に入ります。

2つ目は骨造成をすることです。骨造成とは人為的に新たに骨を作ることです。現在いろいろな方法がありますが、一般的には自分自身の骨を他の部分から取ってきて必要な部位に移植する方法と(自家骨移植)、人工的に作られた骨補填材(こつほてんざい)を必要な部位に入れる方法とがあります。 それぞれ長所、短所がありどちらが優れているとは単純に比較できません。しかし「ゴールド・スタンダード」と呼ばれるのはやはり自家骨移植になります。通常自家骨移植は口腔内の別の場所から骨を取ってきて必要な場所に移植します。ドナーサイド(骨を取る場所)というのは一般的に下顎大臼歯の後側の部分となります。この部分は多少骨を取っても問題ないので、最近はこの場所より採取することが多いです。以前は下顎前歯の下の骨から取ってくることもあったのですが、「腫れがひどくなる」「神経に近く麻痺感が出ることがある」などの理由でほとんど行われなくなってきました。私は係わったことはありませんが、もっと以前は外科の先生と組んで腸骨(骨盤の一部)より採取してくるということも行なわれていたようです。しかし長期症例を見ると腸骨よりの移植は経年的に骨吸収が激しいことが分かってきており、今となってはほとんど行われていないのが実情のようです。また骨移植する側と、骨を採取する側の両方を手術することになり、患者様の肉体的負担も軽くはありません。その他自家骨移植のみですべて済ませようとすると、かなりの量の骨を採取しないといけない場合が多く、その場合の患者様の負担は並大抵のことではありません。そのような理由で最近では「自分自身の骨のみで移植を行う」ということは少なくなってきました。

歯科医療先進国のアメリカではもうかなり前から自家骨移植は行われないようになってきています。そして現在の主流は骨補填材を使用するようになっています。この骨補填材は人工的に合成されたもの、牛などの動物の骨から骨誘導物質を精製して作られたものなどいろいろありますが、現在一番一般的に使用されているものは牛の骨を化学的に処理して粉末状にし、滅菌されたビンに入れて販売されています。そしてそれを骨のない部分に入れると半年程度で自分自身の骨と置き換わるようになっています。これを使用すれば患者さまも傷を1か所つくるだけで済みますし、術後の負担も少なくて済みます。

またその他の材料として日本で主流なのはβTCPという成分のものです。これは牛の骨から作られた骨補填材よりは信頼性は低いのですが、化学的に合成されているため感染等の危険性はまったくありません。商品名は「オスフェリオン」製造元は何とあのカメラで有名なオリンパスです。何故カメラメーカーと人工骨が関係あるのかわかりませんが、本当の話です。

骨造成の成功の可否は、術者の技量はもちろんのこと、患者様側の免疫力にもかかっています。我々がどんなに頑張っても、患者様が非常に感染に弱い体力しかないのであれば、せっかく移植した骨も生着しません。そのことは術前にははっきりとは分からないことも多く、どんなに経験を積んだドクターでも骨造成に関しては成功率が100%ということはありません。我々は術前に患者様に全てを包み隠さずお話して、そのリスクを受け入れて頂ける方にのみこの手術を行っています。 半年程度待って、「骨がきちんとできた」と言っても、もともとある自分の骨とはやはり違います。触ってみるとまだ何だか弾力のある骨です。インプラントの固定には十分ですが、それに咬む力を加えるのはまだしばらく後になります。そして1年、2年と経過していくうちに人工的に作られた骨は段々と固さを増していき、自分自身の骨と代わらない位に成熟していきます。「骨」という固い組織を作るにはやはりかなりの時間がかかるものなのです。